半沢部長にも伝えたい!個人商店型会社員のすすめ

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ととろん堂

フリーライター 兼 現役大型バス運転士として東京下町を徘徊中


かの人気ドラマシリーズでは、

ステレオタイプ的な大企業で縦割り社会に抗えない社員たちが、

出世争いに真骨を注ぎ、その矛先を向けられた正義感に溢れる主人公が毎回話題ですね。

 

元々の原作は2004年発行ですので、

今となっては目を疑うような行動が多々ありますが、

半沢部長の一挙手一投足を月曜日からの活力にしている人は多いのでないでしょうか。 

 

さて徐々に経済が再開されていますが、

2020年春に大きな景気の落ち込みをもたらした緊急事態宣言は解除されたものの、

夏がきても、新型コロナ・ウィルスの感染者数は、あまり減少する兆しを見せていません。

 

2月の下旬以降にはじまった公立学校閉鎖、

外出自粛要請や勤務先の出社禁止(リモートワーク開始)などで、

自身の働き方を見直さざるを得なかった方も多いのではないでしょうか?

 

ところが、2020年7月5日付の日本経済新聞(日経)朝刊(*1)に、

興味深い記事が掲載されました。

「在宅勤務定着、ニッポンの壁 主要国で最低水準」と題し、

緊急事態宣言解除後、日本人が大都市圏のオフィスへ回帰する

戻らざるを得なくなっている)理由を分析しています。

 

いわく、欧米の(仕事内容が明確に規定される)ジョブ型雇用に対して、

日本企業の多くが、職務や責任があいまいなメンバーシップ型雇用をしていること。

その他、デジタル化の遅れや専門職比率が低いことなどが起因して、

経済協力開発機構(OECD)2018年調査では、日本の時間あたり労働生産性が、

米国に比べ4割低い状況に留まっていることなどが報じられています。

 

なぜ日本の会社員達は、コロナ後も密を気にしながら通勤電車に乗りこんで、

生産性の低い「私の会社」まで通ってしまうのでしょうか? 

私自身も”新型コロナ時代”の前も後も働き続けている1人の会社員として、

コロナ後にあるべき働き方の理想像について考察致します。

 

これまでの日本の会社

別の観点から日本型組織の問題点を指摘する記事が

6月に日経に掲載されました。

「コロナ対応、11年前(注:新型インフルエンザ流行)の教訓放置 組織防衛優先で遅れ」

(2020/6/9朝刊)(*2)というものです。

 

ここで論じられているのは会社ではなく、

厚生労働省(厚労省)のコロナ対策に関する指摘ですが、

「縦割りの内向きな組織の姿」

「失敗を認めれば自らに責任が及びかねないという組織としての強烈な防衛本能」

「前例や既存のルールにしがみつくこと」など、

散々な書かれ方です。

しかし、いずれもどこかで聞いたことがありそうなフレーズではないですか。

 

とはいえ、そもそもこれまでに形づくられてきた日本型組織は、

それなりの合理性があったからここまで生きながらえてきたわけです。

 

「日本企業にとって、経済成長が引き続き見込まれる中で、

長期雇用を前提に長期的な視点に立って人材育成を行い、

組織の一体感の醸成、企業特殊的な能力の効率的な形成・蓄積のため、

例えば、若年期には労働者の生産性より低く、

中高年期には生産性より高い賃金を支給することにより、

育成した労働者の移動を防ぎながら、

労働者の職業生涯を通した全体でその生産性に見合った賃金を支給することは

合理的であったと考えられる。」(平成25年版労働経済の分析(厚労省調査)P166第3章第2節)(*3)

 

上記の通り、”高度経済成長”と”終身雇用”を前提とするならば、

旧来の日本型組織は効率的なシステムとして出来上がっていたわけです。

しかし、上記の引用部分だけを切り取ってみても、

もはや前提条件が崩れてしまっている、ということがご理解頂けると思います。

 

まず、大前提として「経済成長が引き続き見込まれる」状況下にないこと。

それ故に、多くの企業には、「長期雇用(≒終身雇用)」を

もはや労働者側に保証することができなくなっていること。

 

それにも関わらず、依然として「組織の一体感の醸成」に腐心し続け、

「若年期に生産性より低い賃金を、中高年期に生産性より高い賃金を」

ということを続けていることに、日本の会社の病巣があると

多くの若手労働者が気付いてしまっているのです。

 

1998年に上梓された「なぜ会社は変われないのか」というタイトルの本。

20年以上前のこのタイトルが、文庫化もされ、

いまだに読まれ続けているという点が、

まさに会社が変われていない一番の証拠とも言えます。

 

この本の著者である柴田昌治氏が、

”変われない日本企業に一番かけているもの”として挙げるのものが”

意味・目的・価値を考える習慣”。

つまり、『企業の体質が「上からの命令には絶対に従う、

下には絶対に従わせる」という原理に長きにわたり支配され(中略)

しっかりとした組織で働く人間ほど考える力を失くしている』のが、

日本企業の低生産性の根源なのだ、というわけです。(*4)

 

コロナ下での日本の会社

さて、「変わらない」「変われない」と言われ続けてきた日本の会社が、

新型コロナという外圧によって、多少は「変わらざるを得なくなって」きました。

 

野村総合研究所(NRI)が行った調査(*5)によれば、

2020年5月の調査期間中に1日以上リモートワークを行った人の割合は26%。

就業形態別では、公務員が37%と最も高く、正社員34%、会社役員/経営者31%、

契約社員26%、自由業/自営業22%、パート/アルバイト8%と続きます。

 

つまりフルタイム正社員以上の時間拘束を受ける就業形態の労働者では、

3人に1人が体験済というわけです。

これは全業種平均の数値なので、

リモートワークに馴染まない業種(接客業、運輸業)等を除けば、

恐らく半数以上が既に実行したこと有り、とみてよいと思われます。

 

コロナ前、テレワークは「企業情報セキュリティ」の点で

「課題が多い」などとして、

一向にホワイトカラー層に普及する兆しがみえませんでしたが、

正直なところ「なんだ、やればできるじゃん。」と思うくらいの舵の切り方です。

 

さらに、リモートワーク労働者側からの意見としては、

情報共有ツール「stock」を運営する(株)リンクライブがアンケートをとっており、

・リモートワークにより、ベテラン世代(40代以上)の75%以上が「無駄な会議から解放された」と回答

・リモートワークにより、ベテラン世代の7割以上が「飲みニケーション等から解放された。」と回答

・リモートワークで、半数以上の人々が「自分のペースで仕事ができるようになった」ことに魅力を感じている

・半数以上の人々が、新型コロナ収束後もリモートワークを継続したいと回答などの、好意的な声が多数集められています。(*6)

 

この調査がリモートワーク・ツールを提供する企業の独自調査であることを割り引いても、

これらの労働者の声がリアルなものであるとするならば、

少しずつ日本の会社も変わりつつあるのではないかと期待がもてます。

まだ変われないのは、『オンライン会議ツールの会社へ、

「(中略)社長や役員など、偉い人順に画面上で大きく表示される方法はないか」

などと問い合わせを入れた』という、

驚愕のシャチョーさんやブチョーさんくらいでしょうか。(PRESIDENT ONLINE)(*7)

 

アフターコロナの理想の働き方

それでは、新型コロナの外圧もあり、

少しずつ変わろうとし始めている日本の会社の中で、

会社員にとって「理想の働き方」とはどのようなものでしょうか?

 

様々な考え方があるかと思いますが、私が最も大事だと考えるのは、

「個人商店的な働き方をすること」です。

つまり、各人が追いかけているプロジェクトについて、

徹頭徹尾、個人(担当者)が責任、及び必要な権限を持つのです。

 

それは必ずしも、「独断で動く」ということを意味するわけではなく、

時として複数のプロジェクト同士が合従連衡しつつ、

それぞれの目的を達成していくような働き方です。

 

昭和的な会社では、よく上司や先輩から、

「個人商店にはなるな」と言われたものです。

かつて、それほどまでに「個人商店」には

ネガティブな意味合いが込められていました。

なぜなら、個人(ひとり)で取り組めるビジネスの規模は、

どうしても小さくなるから(組織力を生かした方が、

プロジェクトの規模は大きくなり、より大きな収益可能性が見込めたから)です。

 

「組織の一体感の醸成」という観点でも、一匹狼的な動き方は忌み嫌われました。

しかし、リモートワークでは、誰もがパソコンの前で一匹狼として仕事上の判断を下し、

プロジェクト・マネジメントとタイム・マネジメントを

自発的に行って行かないと仕事が進みません。

 

プロジェクトや労働時間を自己責任で管理していく感覚は、

個人事業主や副業ワーカーでは当たり前のことですが、

日本の会社員は、いつからこの重要なマネジメント能力を欠いてしまったのでしょうか?

 

それには、「組織の一体性」を担保するための、

日本独特の稟議制度なども大きく影響しているものと思われます。

 

デジタル大辞泉で【稟議】という語を調べると、

「会社・官庁などで、会議を開催する手数を省くため、

係の者が案を作成して関係者に回し、承認を求めること。」と定義されています。

一方、この意思決定手法は日本独自であるため、

この意味を表す英単語は存在しません。

海外からのワーカーにこの制度の意味を説明するのにも苦労します。

 

ただし、稟議制度そのものは経営効率化に大きく役立っています。

稟議制度が機能しないと、スタッフのコスト意識が甘くなり、

販売計画や目標設定がいい加減になります。

「倒産する会社には稟議が無い」とも言われます。(*8) 問題なのは、

稟議そのものではなくて、あらゆる日本の会社にはびこる

「意味・目的が抜け落ちた(形骸化した)稟議制度の残骸」にあるのです。

 

私は、数年前に海外法人とライセンス取引の仕事をしていた際に、

稟議制度の残骸のために、苦い思いをしたことが多々あります。

例えば、全世界の書籍業界の関係者が年に一度、

一堂に会して書籍版権の売り買い取引をする見本市「フランクフルト・ブックフェア」。

版権を売りたい世界中の版元、エージェントが市場を出し、

その版権を買いたいと思う側が「これはいい」と思った作品について、

相対(あいたい)で金額や発行条件などを交渉し、買い付けを行う、

というのが大まかなイベントの流れです。

 

ここに集う世界中の業界人たちは、すべて自分の目的と、

その達成に必要な権限やバジェット(予算)を持って市場の中を歩いています。

しかし、日本人である私は、

高いコストをかけてドイツ・フランクフルトまで遠距離出張するものの、

その場で版権の買い付けや販売のための決裁権を持たされず、

帰国後に稟議にはかるための候補を選んで帰るだけのことを数年続けました。

この仕事の進め方をしている限り、世界中の人が競り合っている市場の中で、

早いもの勝ちで良いものから売れていく仕組みの中では、

はっきり言って「売れ残り」しか手に入れることはできませんでした。

 

このように、「なぜその稟議が必要か」という

メリットとデメリットが整理されていない、

制度の残骸が日本の会社のいたるところにまだ残っています。

「考えない」ことが楽だからです。

一本の稟議書に担当者から役員まで

数人(から、ひどい時には十数人)の押印が並ぶことで、

責任が分散され、結局のところは「無責任」な意思決定が限りなく続くことになります。

 

組織の中でのチームワークを重視することは大事ですが、

時として上席の顔色を伺うことに終始し、

「個を押し殺す」ことを求められる同調圧力が、

これまでの日本の会社を覆っていた閉塞感の霧となって蔓延していました。

 

この霧を晴らすのは、「個人商店的会社員」の行動力だと考えます。

手持ちプロジェクトの意味・目的・価値を的確に理解し、

遂行にあたり必要な権限と情報をカイシャから引き出してくること。

 

そして、一般的には”当初想定通りには進みづらい”プロジェクトの

結果についてきちんと責任をとり、それ以降の行動にフィードバックしていく。

そんな、「会社員」としてではなく「ビジネスマン」としての

基本中の基本に立ち返られるワーカーの比率が高まるほど、

本の会社は活力を取り戻せるようになるはずです。

 

あなた自身の働き方、そしてあなたが勤めている会社は、

澄み渡ってますか? それとも霧がかかっていますか?

 

参考リンク集:
(*1) https://r.nikkei.com/article/DGXMZO6117315004072020MM8000?disablepcview
(*2) https://www.nikkei.com/article/DGXMZO60128210Y0A600C2MM8000
(*3) https://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/roudou/13/13-1.html
(*4) http://www.scholar.co.jp/column/detail.php?id=276
(*5) https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20200711-35156619-zdnet-sci
(*6) http://www.linklive.co.jp/docs/stock_press_20200421.pdf
(*7) https://president.jp/articles/-/36897
(*8) https://bcj-co.jp/keiei5/knowhow50.html

 

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