『ブルシット・ジョブ』(クソどうでもいい仕事)という本が、 働く世代に教えてくれること

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ととろん堂

フリーライター 兼 現役大型バス運転士として東京下町を徘徊中


ー1日3時間働けば「やっていける」世の中になっているのでは?ー

2021年に入り、2度目の緊急事態宣言が日本国内一部地域に発令されました。

 

2020年以降、事務職を中心にテレワークが広く導入されましたが、

40代、50代に限ってみると、テレワーク効率が低いという調査も

出ているようです。

 

そして、厳しい業績の中小企業ばかりでなく、大手でも40代以上を対象に

相次いで導入された早期退職勧奨制度。

働き手が明るい話題を見つけづらい市況は、もうしばらく続きそうです。

 

しかし、ただ不安をかかえて日々過ごすのではなく、

個人でも準備しておくこと、考えておくべきことがあるのでは

ないでしょうか?

 

やりがいを見つけにくい仕事で、悩みを抱えているビジネスパーソンに、

ぜひお薦めしたい本があります。

 

『ブルシット・ジョブ クソどうでもいい仕事の理論』

デヴィッド・グレーバー著 酒井隆史・芳賀達彦・森田和樹訳

岩波書店 2020年7月初版

 

日本語版で全編430ページ以上にもおよぶ学術書ですが、

著者・訳者独特の痛快な言い切り論法で、ビジネスパーソンにも

難なく読み通すことができます。

 

この記事では、日本国内で働く40歳以上ホワイトカラーの人々が、

これからの職業生活を安心して続けるために意識すべきことを、

同書主張も引用しつつお伝えします。

 

ブルシット・ジョブ(クソどうでもいい仕事、以下BSJと略)とは何か

同書では、さまざまな社会課題について問題提起、仮説立案していますが、

大まかな論調については、同書表紙ウラの要約が的確に伝えています。

 

やりがいを感じずに働いているのはなぜか。

ムダで無意味な仕事が増えているのはなぜか。

社会の役に立つ仕事ほどどうして低賃金なのか。

これらの謎を解く鍵はすべて、BSJにあったー。

(中略)

「仕事」と「価値」の関係を根底から問い直し、

経済学者ケインズが1930年に予言した

「週15時間労働」への道筋をつける。

(表紙ウラ引用)

コロナ禍収束が見通しづらい時期だからこそ、ぜひ同書を読むべき理由があります。

 

まず、本編に登場する、多くの英米ホワイトカラーの人々が、

日本人と同じように、自分の働き方に疑問や不安をいだいている、

ということがわかるのです。

 

そして、社会主義に比べて資本主義の方が「経済合理性」

によって動かされる、という通念も、全くの幻想だということが

分かるからです。

 

同書で詳細に記述されている英米の事例と照らしあわせることで、

「なぜ日本の新型コロナ感染者データベース情報収集が、

手書きとファックス送受信のまま放置されてきたのだろう?」とか、

 

「なぜ日本の文科省デジタル化推進本部会議に、

パソコンやタブレットが一切持ち込まれず、

紙の資料配布で議事進行されたのだろう?」といった不合理について、

答えがみつかるのです。

 

非常に単純化して上の問いへ答えると

「”ファックス読み取り係”や、”紙資料印刷・配布要員”という

BSJ雇用を維持し続ける義務が、各組織にはあったわけです。

 

著者によれば、1930年にケインズが講演で語った100年後の予測

「1日に3時間働けば、十分に生きていける社会」は、

「生活に必要な儲けを得る」、という意味では、すでに達成されている、

といいます。

 

(さらに、同書では、BSJな職種であるほど、

概して高給取りであるケースが多いと指摘しています。

職種と給与水準に関する分析も秀逸ですが、解説が膨大になるので、

この記事では省略します。

興味がある方は、ぜひ本編272ページからの

「仕事の社会的価値とその対価として支払われる金額の転倒した関係について」

を読んでみてください。)

 

ではなぜ人はそれより長く働き続けているのでしょうか? 

それは経済的な問題ではなく、道徳的、政治的な策略によるものです。

 

経営者、為政者にとっては、

「仕事はつねに道徳的価値も持っている。起きている間は、

何かしらの労働についていなければ、報酬を得るに値しない者だ。」という、

宗教にも紐づく道徳感が非常に都合よいものだったわけです。

 

このような理由から、「働いているフリ」をするためだけのBSJが、

歴史的に量産されてきました。

同じ状況が、日本ばかりでなく英米でも起きていたことを、

同書は教えてくれます。

 

BSJの定義

著者は、BSJについて、同書の中で下記のように定義しています。

BSJとは、被雇用者本人でさえ、その存在を正当化しがたいほど、

完璧に無意味で、不必要で、有害でもある有償の雇用の形態である。

とはいえ、その雇用条件の一環として、

本人は、そうではないと取り繕わなければならないように感じている。

P27引用

 

BSJの主要5類型

どこの職場にも蔓延(まんえん)するBSJは5類型に分類され、

「自分の仕事が無意味だ」と感じる被雇用者の業務の大部分は、

この5つのどれかにあてはまる、としています。

  1. 取り巻き(誰かを偉そうにみせたりするためだけに存在する仕事)
  2. 脅し屋(雇用主のために他人を脅したり欺いたりする要素をもつ仕事)
  3. 尻ぬぐい(欠陥を取り繕うためだけの仕事)
  4. 書類穴埋め人(組織が社会的価値を生み出せていないことを、「きちんとやっている」ことにするためだけの書類作成の仕事)
  5. タスクマスター(他人に仕事を割り当てて、他人のBSJを作りだすためだけの仕事)

 

もし、読者の皆さんがいま、実際に自分が行っている仕事の意義、

やりがいを見失いかけているならば、その仕事は(程度の差こそあれ)、

5分類いずれかにあてはまるBSJの可能性が高くはないでしょうか?

 

もし自分がBSワーカーだとしたら、どうすべきか

もし、いま自分が取り組んでいる仕事がBS(どうでもいいこと)だと

危惧(きぐ)されるのであれば、一刻も早く「その状態を抜け出す術(すべ)について、

社内で考える、相談する、働きかける」ようにしてください。

それが難しいようであれば「自分を守りながらそのBSから逃げ出す」

方策を真剣に考えるべきです。

 

この記事の筆者は、50歳ちょうどの年齢でBS卒業の転職を済ませましたが、

けして同じことを皆さんにお薦めしているわけではありません。

 

なぜならば、業績急回復が見通せない企業で、

被雇用者の仕事がBSであることを口実として

(そのBSが本人の望んだものでなかったとしても)、

人員整理の対象とされる可能性が高いからです。

 

2020年から2021年にかけ、業績不振などを理由として、

40代以上対象の早期退職勧奨制度を導入した企業が多く存在します。

その典型的な例として、「本田技研工業」「電通」「ファミリーマート」

3例を取り上げます。

 

早期退職勧奨制度を導入した企業

本田技研工業(ホンダ)

2021年から「ライフシフト・プログラム(LSP)

(転進支援制度)≒早期退職勧奨 を導入します。

同社では2015年に、他社に先駆けて65歳定年制を実施しており、

「定年を伸ばしながら退職勧奨をする」という、

ねじれた状況になっているのです。

 

この「ねじれ」の最大の原因は”50代バブリーマン対応”のため。

ホンダの国内社員構成は、50歳以上が約4割とのことで、

連結国内従業員数215,638名に0.4をかけると、

グループ全体で9万人弱もの50代社員を雇用していることになります。

 

ホンダのケースは必ずしも特殊なものではありません。

多くの国内企業で、1980年代後半-1990年前後にバブル世代を採用しすぎ、

その結果として次世代(氷河期世代/現在の40代)へ十分なポストや役割、

仕事を与えることができず、総じて40歳以上中高年社員の働き方が

BSJ化してしまう、という悪循環が起きているのです。

 

電通

2021年1月から、おもに40代以上の社員約230人を

「正社員としての直接雇用」から「業務委託契約」に切り替え、

個人事業主として電通の業務に関わる働き方にしたといいます。

「体の良いリストラでは?」という声も聞かれるなかで、

人事コンサルタントの城繁幸氏は、これを「消化試合25年問題解消の切り札」

と考えているようです。

 

つまり、40歳前後で、社内での上がり目がなくなってくると、

どうしても多くの社員は、仕事への情熱を失ってしまいます。

そこから定年延長、もしくは再雇用期限の65歳まで約25年間が

「消化試合」になってしまっては、当人にも会社にも大きな損失となる、

というわけです。

 

それよりはむしろ、個人事業主≒個人商店の社長として、

外の世界からもっとギラギラした仕事を取ってこられる環境を

作ろうとしたのが、制度改訂の趣旨とみられています。

 

ファミリーマート

2020年3月31日付で、全社員の約15%にあたる1,025名が、

早期退職優遇制度を利用して退職しました。

 

優遇制度利用の募集は、当初2月21日までの期間を設けるはずでしたが、

予定人数(800名)を大幅に超える1,111名が応募したため、

2月7日応募締切に切上げ。

「当社の日常オペレーションの継続に重大な影響を及ぼす可能性のある

一部社員については、本制度の適用外」(ファミリーマート社広報資料)

としたそうです。

 

会社がここまで明確に「あなたの仕事はBSJなのでお辞めいただきたい。」

「あなたは残ってもらわなければ困る。」と線引きをしたのは、

非常に滑稽(こっけい)とも言えますが、多くの企業が考えていることでも

あるといえます。

 

コロナ禍は、自身の働き方を見直す絶好のチャンス

企業業績の回復がない限り、今後も会社と社員との関係は、

緊張を強いられるものになるでしょう。

しかし、ただ漠然と不安をいだいたまま過ごすのではなく、

自分の働き方をもう一度見直してみるきっかけにしてみてはいかがでしょうか。

 

仮にこの先、会社からポンと肩を叩かれることがあっても、

ただうろたえるのではなく、「その出社は本当に必要なのか?」、

「その会議やその商談は有効か?」、「次に自分はどう動くべきか?」

というアイディアを持っておく必要があります。

これも「コロナ禍から自分を守る」大切な1つのポイントだと思いませんか?

 

冷静に自分の仕事を分解してみれば、冒頭書籍の著者が述べたように、

本当に「1日3時間働けば十分やっていける」状態になっているのかも

しれませんよ。


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