ノンアルコールや低アルコール飲料がいま注目されるワケ

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ととろん堂

フリーライター 兼 現役大型バス運転士として東京下町を徘徊中


お酒はお好きですか?

筆者は根っからの酒好きですが、1冊の本を読了し、深く考えさせられたことがあります。

ゲコノミクス 巨大市場を開拓せよ!』

(藤野英人 著/日本経済新聞出版/2020年5月発行)

著者・藤野氏が、ゲコ(下戸/お酒を飲めない人)の立場から、

日本の飲料メーカー/飲食業界の課題・可能性について言及した話題作です。

そして、この本の提言を実践するかのように、

昨今、多くの斬新な低アルコール新商品や、新スポットが誕生しています。

 

この記事では、今後の大きな流れになるかもしれぬ可能性を秘めた

「低アルコール飲料」と、ノンアルコールの「モクテル」などに

スポットを当てて、酒好きの人と下戸の人とが、

共にハッピーになれるドリンク・スタイルについて考察します。

 

なぜ「低アルコール」というカテゴリーが必要なのか?

冒頭の書籍では、酒好き(ノミスト)に対する下戸(ゲコノミスト)の4類型を、

以下のように紹介しています。

  1. 真性ゲコノミスト:お酒が嫌いで、体質的に飲めない
  2. 酒好きゲコノミスト:お酒が好きだが、体質的に飲めない
  3. 酒嫌いゲコノミスト:体質的に飲める(お酒に強い)が、飲むのが嫌い
  4. 選択的ゲコノミスト:お酒が好き、且つ飲める(強い)が飲まない、飲みたくない

 

そして、医療用アルコール消毒でもかぶれてしまう

(1)真性ゲコノミストと同じように、その他のゲコノミストたちも、

忘新年会や親族の集まりなどでは、一様にオレンジジュース・ウーロン茶・

ジンジャエールしか選択肢がなかった、というのが実情なのです。

 

一方で、筆者も含め、多くのノミストたちは、

過去にゲコノミストにこんなことを語った記憶がありませんか?

「お酒強そうな風格しているのに、(飲めないのは)意外だね。」

「お酒を飲まないなんて、人生の半分を損をしたような気分だな。」

 

アルハラ(アルコール・ハラスメント)は論外としても、

こうしたちょっとした言動が、ゲコノミストたちの感情を傷つけていた、

ということに、ノミストたちは気づいているでしょうか? 

 

パンデミックによる活動制限がかかる前の2019年暮れに、

SNS上で  #忘年会スルー というハッシュタグが大流行したのも、

実は世の半分を占めるゲコノミストたちのささやかな反逆だったのかも

しれません。

 

意欲的な「低アルコール」新商品が続々登場

コロナ禍で外食の制約が増えた2020年から2021年にかけて、

本格ビール(アルコール度数5%や6%)でも、

ノンアルコールビール(0%)でもない、

「低アルコール」というカテゴリーが、

非常に注目されるようになりました。

大手飲料メーカーも、次々と意欲的な新商品を市場に投入しはじめています。

 

スーパードライを主力商品とするアサヒビール(株)は、

2021年3月30日に、アルコール度数0.5%のビールテイスト飲料

「ビアリー」を発売。

筆者も実際にテイスティングしてみましたが、ノミストからみても、

この商品の風味は非常に魅力的に感じます。

ノンアルコールビールよりも「ビールに近い味」が出せている理由は、

「ビールを醸造した後から、アルコールを抜く(脱アルコール工程)で分離に成功」

しているから。

ビールテイスト飲料の風味に関して、

冒頭書籍の藤野氏がFacebookで管理人をする

「ゲコノミストグループ」アンケートで、面白い調査結果が出ています。

 

「皆さんはどのノンアルコールビールが好みでしょうか?」

1位 ノンアルコールも苦手 (断トツの152票)

2位 酒っぽいものは飲まない (62票)

3位 サントリーオールフリー (50票)

4位 キリン零ICHI (17票)

5位 アサヒドライZERO (16票)

 

結局のところ、ビールがダメな人はノンアルコールビールも

飲まない場合が多いようです。

「ノンアルコールビール」「ノンアルコールハイボール」は、

どうやっても真性ゲコノミストの手には取ってもらえない、

と割り切り、味覚にこだわって多少なりとも飲める人の

「減アルコール」に目をつけたところが、

この商品の画期的なところだと言えるでしょう。

出足は好調のようで、6月にはシリーズ第2弾商品

「ビアリー 香るクラフト」を投入する予定も立っています。

 

沖縄旅行に行くと必ず目にするオリオンビールも、

2021年3月23日に、フルーツテイスト

(シークワーサー/アセロラ/グレープフルーツ)の

”ハードセルツァー”「DOSEE」を発売。

“ハードセルツァー”とは、現在アメリカ西海岸で大流行している

低アルコール飲料の総称で、サトウキビ由来のアルコールと炭酸水を

ミックスしたものです。

「DOSEE」のアルコール度数も2%に抑えられているようです。

 

世界最大級の家具・雑貨チェーンIKEAも、

本国スウェーデンで人気のブルワリー(ビール醸造所)オムニポロの、

缶デザインがとてもPOPなビールテイスト飲料4種類を、

2020年6月4日より日本で販売開始。

この商品のアルコール度数は、わずか0.3%未満だそう。

 

東京都内には、「ノン」「低アルコール」専門バーもオープン

従来の飲食業界常識をくつがえすようなバーも開業して、業界内外で話題を集めています。

2020年3月12日、東京・日本橋にオープンした「低アルコール」+「モクテル」

のみに特化した Low-Non-Bar 。(2021年7月に神田万世橋へ移転)

ノミスト代表として、はたしてモクテルは楽しめるのか、実際に訪店してみました。

 

ニューヨーク(NY)ブルックリンで流行っているノンアルコール・バー

「ゲッタウェイ」が、日本でも紹介されたのが2019年ころ。

それ以前から、酒販業界紙やバーテンダーのコミュニティでは、

「ノン」「低アルコール」専門店が話題になっていたそう。

 

最初は「ビジネスとして成立するのか?」と危ぶまれる声もあったようですが、

ミレニアル世代(1980-2000年生まれ)に支持される

sobriety(ソベルティ)の動きとも相まって、

NYではすっかり新業態として定着したようです。

 

「従来の飲食業界の常識をくつがえす」とは、つまり、

これまでの日本の飲食店はお酒で粗利を稼いできたのに、

稼ぎ頭を出さないお店である、ということです。

そして、これまで脇役扱いされてきた商品で、

しっかり常連客と利益を獲得できているそう。

 

「ノン」「低アルコール」ならではの商品化の難しさ

「そうは言っても、ノンアルコールならではの難しさもあります」

バーテンダーの高橋弘晃氏が、語ってくれます。

 

「アルコール抜きのスイートな飲み物、というだけでは、

単なるフルーツジュースになってしまいます。

プロのレシピで「カクテル」としての香りや舌ざわりを演出するのですが、

従来のカクテルなら、「アルコールに酔う」ことに頼ることもできます。

モクテルの場合、お客様の意識はしっかりしたままですから、

従来のカクテルをお出しするより、さらに真剣勝負になりますよ。」

 

元々「カクテル」の語源となった「鶏の尾」をローズマリーの葉で演出した

ハウス・モクテルは、数種類のビネガーが絶妙に混ざりあって、

ベースはベリー(苺)系でありながら甘くない、爽やかな口あたりに仕上がっています。

 

次に、「ノンアルコール・ジントニック」を作っていただくことにしました。

え?「ジン」って、テキーラやウォッカなどと並ぶ、

世界4大スピリッツではないですか?

いえ、ノンアルコールでも「ジン」を名乗れるんです。

 

名称「ジン」の語源となった成分は、

あの強い酸味を演出する「ジュニパーベリー」のこと。

アルコール成分を含まずとも、このジュニパーベリーで味付けされていれば、

立派な「ジン」なのです。

実際に、このジントニックのベースとなった

「緑の秘境」というジンをテイスティングさせていただきました。

 

ドライジンのような強い香りはそのままに、液体を口に含めば、

なるほどそれはミネラルウォーターのようなスルッとした飲み心地でした。

 

お店には、「カップルでも、女性の方から誘いだして、彼氏をこの店にひっぱってくる」

とか、「これまで飲酒経験がないハタチの大学生が、

バーデビューのために恐る恐る扉を開ける」

など、様々なお客さんが訪れます。

 

従来のオーセンティック・バーとは明らかに違うニーズに、

このお店は応えているようです。

 

<店舗情報>

新店舗:2021年07月20日(火)開店
営業時間:14:00〜23:30(L.O23:00)
住所:
〒101-0041
東京都千代田区神田須田町1-25-4
LOW-NON-BAR マーチエキュート神田万世橋店
電話番号:03-4362-0377

コロナ禍により状況が不安定な為、変更等は随時こちらでお伝えさせて頂きます。
Instagram: https://instagram.com/low_non_bar?utm_medium=copy_link

 

ノミストとゲコノミストの唯一のコミュニケーション手段

日本も積極的に取り組んでいるSDGs(持続可能な開発目標)17の目標でも、

「3.5 薬物乱用やアルコールの有害な摂取を含む、物質乱用の防止・治療を強化する」

という項目が掲げられています。

目標達成時期である2030年までに、ノミスト達は、

薬物と同じくらい依存性が強いお酒との付き合い方を、

これまでより「スマート」にすることを求められています。

 

また、同調圧力が強いとされる日本社会で、とかく”マイノリティ”と

みなされがちなゲコノミストへのノミスト達の理解を深めるためにも、

「ノン」「低アルコール」飲料は重要な役割を果たします。

本来、「好む」「好まない」、「飲める」「飲めない」だけの問題であるべきお酒が、

人々の”ダイバーシティ”を阻害することがあってはなりません。

 

いまの「ノン」「低アルコール」市場の盛り上がりは、ノミスト、ゲコノミストが

お互いの立場の思い、楽しみ方の相違を理解しようという考え方が

支えているのかもしれません。

あなたがノミストであれ、ゲコノミストであれ、新しいジャンルのアルコール飲料を、

この機会にぜひ試してみてください。

 

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