「イギリス料理はまずい」はホント?現代英国のごはん事情。

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ネモ・ロバーツ

写真家&ライター&日常系ミニマリスト。 広告制作・編集と撮影の仕事を経て渡英。ロンドンをベースにアーティスト活動を行う。 『レス・イズ・モア 夢見るミニマリストでいこう。』『ロンドンでしたい100のこと』(共著)を出版。 ロンドンを拠点に展覧会もやっています。


世界各国の料理が楽しめる日本。しかしイギリス料理に馴染みがないという人は

多いのではないでしょうか。

 

これはフランスやイタリア料理に比べてやや地味なイギリスの料理に

「不味い」という先入観がつきまとってきたせい。

ヨーロッパ中の食通とセレブが集まるようになった現代のイギリス料理は

おどろくほど美味しくなっています。

 

今回は英国の知られざる食事情、そして「イギリスはまずい」説の由来について

ご紹介していきます。

 

「イギリスはまずい」の烙印を押された3つの理由(わけ)

 

ボリューム満点の英国式朝食。食べた日は夜までお腹がいっぱいに。

イギリスの食といってもフィッシュ&チップスぐらいしか知らない、

という人も多く、なぜか人気のない英国料理。

食べたことがなくても「イギリス料理はまずい」という先入観を

持っている人もかなり多いようです。

 

お国柄をネタにしたジョークでもちょくちょく登場するイギリス人の味オンチ説。

実はこんなステレオタイプが生まれたのには18世紀の産業革命が関係しています。

 

産業革命で忙し過ぎた

世界史でおなじみの産業革命。

これまで手作りだった製品を工場で大量生産できるようになった英国は

爆発的に発展して広大な植民地帝国を築きあげました。

 

このため都市部では大勢の労働者が必要となり、農村部から出稼ぎに向かう

ワーキングクラスの人々が増えます。

家庭を離れた彼らは過酷な労働を生き抜くため、

手軽でたっぷりエネルギーを与えてくれる外食に頼りました。

お店も味よりもボリュームを重視した時代。つまり国の発展に大忙しで、

グルメにかまっている暇がなくなってしまったのです。

 

紳士のプライド

労働者階級よりも豊かなジェントルマン階級(中産階級)では、

質実剛健を好み食に関して多くを語らず、質素を貫くのを美徳とする風潮がありました。

 

「あれが食べたい、これは不味いと食についてとやかく言うのは下品なこと。

紳士たるもの、不遇に耐える精神を持ち誇り高く生きるべき」

そんなプライドを持っていたと言われます。

また寄宿学校に入った良家の男児は、質素な食事を与えられ

ビシバシ鍛えられたそう。

 

フランス人にお任せ

貴族などアッパークラスでは、美食の国から来たフランス人シェフを

雇うことが多かったため、自国の料理がそれほど発展しなかった

という説もあります。

当時の上流階級はハレのごちそうはフランス料理で、

普段はイギリス料理というふうに使い分けていたとのこと。

これには革命から逃れ英国に渡ってきたフランス人が多かったことも関係しています。

 

…こんなふうにして最も栄えていた時代のイメージから

“まずい”という烙印を押されてしまった英国。

一度ついてしまったイメージを払拭するのは、なかなか難しいようです。

 

ちなみに英国上流階級の生活を知りたいなら、欧米で社会現象にもなった

英国貴族ドラマ「ダウントン・アビー」がおすすめ。

伯爵家のゴージャスな屋敷を舞台に、英国貴族一家の自負とプライド、

使用人たちのドラマをコミカル&感動的に描いています(2019年には映画版も公開)。

『ダウントン・アビー』オフィシャルサイト

 

実はおいしい、今のイギリス

美味し過ぎる!と評判の「ブレッド・アヘッド・ベーカリー」のドーナツ。

しかしイギリス飯がイマイチだったのは過去の話。英国の食のレベルはかなり上がっています。

 

とくに近年では伝統食を見直す「食の匠運動」ともいうべき

アルティザン・ブームが全国的に広まり、英国らしい伝統食が見直され

人々の食全体への感心がさらに上昇中。

クラフトビールやクラフトジンといった、古き時代の製法を現代的に蘇らせた

個性的なドリンクも大ブームです。

環境や健康に関心を持つ人も多く、オーガニックやフェアトレード、プラントベース食も盛ん。

 

そしてイギリスの伝統食に加え、ヨーロッパ諸国やインドや中東料理など

多様な移民文化の影響をうけた新世代のモダン・ブリティッシュも

イギリスが誇る食文化の一つといえます。

「ミシュランガイド イギリス&アイルランド 2020 」で星を獲得したレストランは187軒。

最高評価の “三ツ星” を獲得したレストランは5件あります。

 

かつて植民地であったインドや香港の料理は、イギリス国内独自の進化を遂げています。

人気のインドカレー「チキンティカマサラ」も英国のインド料理店で誕生。

鶏肉をカレー風味のクリームソースで合えた「コロネーション・チキン」は、

1953年に行われたエリザベス二世女王の戴冠式のために考案され、

現在ではイギリスの国民食の一つとなっています。


かつては上流階級の朝食、スパイスと魚を使ったリゾット風の「ケジャリー」もインドの影響を受けた英国料理。

家庭料理がオススメ

英国は平地が多く酪農や農業が盛ん、島国のため魚介類も豊富です。

このため土地の素材を生かしたご当地グルメがたくさんあります。

 

そして意外かもしれませんが英国で作られているチーズの種類はなんと750種類以上。

「ロックフォール」「ゴルゴンゾーラ」と並び、世界三大ブルーチーズといわれる

「スティルトン」も英国産です。

クリスマスのごちそうの最後に、何ヶ月も熟成したフルーツケーキとともに

スティルトン・チーズをいただくのは英国人の至福の瞬間の一つとされています。

スティルトン・チーズは食べすぎると不思議な夢を見るという伝説も。

新しい食トレンドに敏感な日本人に比べ、古いものを好み「いつものメニュー」を食べると

幸せを感じるのが英国人。

イギリス食を知りたいなら家庭料理メニューを試してみるのが一番です。

 

ミント・ソース、新ジャガ、柔らかなエンドウ豆と一緒にいただく

香り高いラム料理や季節のフルーツをふんだんに使ったデザートやお酒。

そして日曜日の午後に家庭やパブで皆で集って食べるのが楽しい

ごちそうのロースト料理。

パイ皮に包まれたミートパイやサーモンパイもイギリスのおふくろの味です。

 

ちなみに英国人がフィッシュ&チップスを最も食べるのは金曜日。

週の終わりは手抜きしてテイクアウトや外食で済まそう…

という気持ちもあるのですが、

キリスト教で金曜日に肉の代わりに魚を食べる習慣があったことも

影響しているのだとか。

 

千年の歴史を持つロンドンの台所

ベーカリーだけでもたくさん種類がある

前述のアルティザン・ブームによってグルメな屋台フードが

充実しているのも近年の傾向です。

ロンドンにある人気フードマーケット「バラ・マーケット」は

そんなトレンドを反映した市場の代表格。

なんと1000年以上の歴史があるといいますから驚きです。

 

新しく登場したライバル・マーケットに押されたり、

スーパーマーケットの普及によりその存続が危ぶまれた時代もあったのですが、

高級食材とグルメ屋台路線に大きく方向転換したことで、

現在ではロンドン市民だけでなく観光客も訪れる人気スポットへと変身しました。

 

天井が高く歴史ある建物が特徴的なこのバラ・マーケットは

ロンドンを舞台にした映画やドラマにもよく登場しています。

日本でも大ヒットしたラブコメディ『ブリジット・ジョーンズの日記』では、

出版社に勤める主人公ブリジットが、バラ・マーケットにある

有名なパブの上階にあるフラット(アパート)に住んでいるという設定でした。

オレンジ・ソルトや、トリュフ・ソルトなど珍しい塩がたくさん。
バラ・マーケットにある、スパイス専門店の様子。

イギリスはおいしい

こんなふうにイギリスは美味しいものがたくさん。

日本にも紅茶専門店やアフタヌーン・ティーのお店、

英国風パブや本格派のレストランまで、熱心な英国好きに支えられているお店が

たくさん見つかります。

旅行に出かけにくい時代ではありますが、次回の外食にはぜひ英国料理に

チャレンジしてみてはいかがでしょうか。


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