保護犬と豊かな生活を送る方法|譲渡時のトラブルやよくある犬の問題行動を紹介

この記事をかいた人

伊藤幸子

森の中でリスや野鳥に囲まれて文筆活動に従事。 翻訳の世界から創作の世界へ転向して20年。 ライター歴は8年。 日本の伝統文化や精神世界、健康や電子出版など、幅広いカテゴリーのライティングに取り組みながら、自然との共存共生をテーマに命のつながりにフォーカスしたファンタジー小説を執筆中。 愛犬家。


保護犬の探し方はわかったけれど、

実際に、保護犬を迎えてうまくやっていくことができるのだろうか…。

昨今、いろいろな媒体を介して、殺処分の現状や

保護犬の実態を学ぶ機会が増えたこともあり、

里親希望者の中には意識の高い人が多い、

とボランティアさんたちはいいます。

事前に保護犬のことをいろいろと調べ、面倒な手続きもいとわずに、

真摯な思いで保護犬と向き合う姿は、現場で保護活動に取り組んでいる

人たちにとっては一筋の光りです。

しかしそういった高い志を抱く一方で、

保護犬とよい関係を築いていくことはできるのだろうか、

といった一抹の不安を抱いている里親希望者がいることも事実です。

 

そこで今回は、そういった里親希望者の人々が、

実際に保護犬と暮らすようになって驚いたり悲しんだりしないように、

起こり得るトラブルを挙げて、予防法や対処法などを

紹介したいと思います。

犬も人間と同じように感情をもっています。学習もします。

それさえ理解していれば、時間はかかるかもしれませんが、

必ず信頼関係を築くことができます。

せっかくのご縁で迎え入れた保護犬と末永くいっしょによい年を重ねてくために、

この記事が参考になれば嬉しいです。

 

譲渡に関して起こり得る問題

各地方自治体に設置されている保健所や動物愛護団体(センター)、

各NPO団体など、相手が組織である場合は、

譲渡に関する条件やルールがしっかりと定められており、

トライアル期間も設けられているので、

「いった、いわない」といった類のトラブルは

まず起こらないと考えてよさそうです。

 

しかし、保護されている犬には問題はないのですが、

管理上の問題が指摘されている団体もあります。

また、個人間での譲渡は要注意です。

親しい人だからといって口約束で引き取ると、

後で何らかの問題が発生し、それが人間関係を壊してしまう

というケースもあります。

ここでは、そういった譲渡に関する問題を事前に防ぐ秘訣を紹介します。

 

個人間の譲渡には注意が必要

保護犬の里親を探している、いわゆる保護主は団体だけではありません。

里親探しのコミュニティーサイトを見てもわかるように、

個人で里親募集をしているケースが半分以上を占めている

といっても過言ではありません。

 

団体から譲り受ける場合やコミュニティーサイトを介しての譲渡の場合は、

里親との間で譲渡契約書や宣誓書などを交わすのが慣例となっていますが、

個人同士の場合は、口約束や簡単な書面ですまされることがあります。

これは、何かトラブルが起きた場合に非常にやっかいな問題に

発展する恐れがあるので、絶対にやめましょう。

 

個人間での譲渡で発生し得るトラブルとしては次の2つが多く見られます。

①譲渡した保護犬の返還を要求してくる

②譲渡後、元親(元保護主)が里親へ過干渉をしてくる

 

①のケースは、元保護主が保護犬への未練を断ち切れなかったり、

譲渡後に別の里親希望者から有償(無登録の場合は違法)で

譲渡をもちかけられたりする場合によく起こるトラブルです。

ワクチン未接種や病気の治療を口実に、一度返してほしい、

と言われて元親に犬を預けたところ、そのまま戻してもらえなかった、

といったケースも多々見られます。

 

②のケースは、定期的な経過報告を口実に、

元親が電話やメールで、あるいは家までやってきて、

里親のケア方法にうるさく口を出してくるといったトラブルです。

中には、フードやシャンプーなどを指定してくる元親もいて、

精神的に疲れてしまい、せっかく縁あって家族に迎え入れた保護犬を

返してしまう里親もいます。

 

いずれの場合も、当人同士で冷静に話し合って解決できればいいのですが、

ほとんどの場合、感情的になってしまい、訴訟問題にまで発展することも

少なくありません。

 

そういったトラブルを防ぐためにも、まずはきちんと譲渡契約書を交わすことを

おすすめします。

ネットでひな型を検索するか、大手コミュニティーサイトで

公開している契約書を参考に作成するとよいでしょう。

一番安心なのは、行政書士に相談することです。

無料で相談にのってくれるところもあるので、探してみてください。

作成する際は、②の過干渉を防ぐための一文を入れておくのを

忘れないようにしてくださいね。

 

次におすすめしたいことは、譲渡契約の際、第三者に立ち会ってもらうことです。

元親と里親だけだと感情的になったり、力関係によっては

元親にねじ伏せられたりすることもないとはいえません。

不毛な争いに発展させないためにも、最初から第三者の立ち合いの元に

譲渡契約を結ぶのが賢明な方法です。

 

<保護犬譲渡契約書のサンプル>
https://dogpartner.club/wp-content/themes/pet_theme/pdf/2017_01_contract.pdf

https://www.pet-home.jp/agreement/

<保護犬譲渡契約書の書き方・無料相談>
https://office-gyousei.com/transfer-written-oath/

 

実績のある信頼できる団体を選ぶこと

保護主が団体ならば安心か、というとそうでもありません。

劣悪な環境で多数の犬を保護していて、マスコミなどで取り上げられたり

摘発されたりする団体は、残念ながら現在でも存在します。

以下に、実績のある信頼できる団体かどうかを判断するための

チェックポイントを紹介します。

 

自分の目や耳で確かめること 

ホームページやブログなどはいくらでも繕うことができます。

実績のある信頼できる団体かどうかを見極めるための一番確実は方法は、

実際にその団体を訪れて、次のようなことを確認することです。

  • 保護されている環境が良好かどうか
    トイレの垂れ流しはないか、清掃は行き届いているか、寒さ暑さをしのぐことができるか、
    などを確認しましょう。
    劣悪な環境で保護されている場合、犬たちの健康状態に問題が発生する可能性があります。
  • スタッフやボランティアさんたちは何人くらいいるか
    経営状態が悪いとスタッフやボランティアさんたちは長続きしません。
    人手がなくなると保護犬のケアができなくなるため、環境の悪化や健康管理、運動不足などの問題が発生します。

 

なるべく詳細に話を聞いてみる

責任者と話をして、その団体が保護犬たちの今後の生活について

どれだけ配慮をしているかを知ることはとても大切です。

そのためには、次のことをきちんと把握しておくことが必要です。

  • 去勢・避妊手術、狂犬病と混合ワクチン、フィラリア対策、その他何かしらの
    疾患が見つかった場合の治療などを徹底しているかどうか
    → 獣医師の証明書や領収書は提示できるか
  • 保護犬たちの性格や犬種・年齢・サイズに固有の特徴をどの程度理解しているか
    → 里親希望者にきちんと説明し、その保護犬に合った里親かどうか見極めているか
  • しつけや訓練はどの程度入れているか
    → 里親といっしょに暮らすうえで支障がないようにしているか
  • 里子に出したあとのフォロー体制はどうなっているか
    → しつけや訓練に関して、保護犬の問題行動について里親からのSOSにどう対処するか、
    里親との暮らし方について定期的なチェックはどのようにして行っているか

 

これらのことがわかると、その団体がレスキューした犬たちの命と、

いずれその犬の家族になる里親希望者に対する責任感の強さがわかります。

保護主は、「ああ、里親が決まってよかった。これでまた一頭保護することができる」

で終わってはならず、里親の元での暮らしにまで目を向ける必要があるからです。

 

また、歴史や名のある大きな組織団体、新しい団体かは特に問題ではなく

その団体が保護犬にかける思いはどうか、といった視点でチェックしましょう。

 

地理的や時間的に難しい場合は、上記のようなことに関して、

電話やメールできちんと確認しましょう。

良心的で、自分たちの活動に自信をもっている団体は、

どんな細かい疑問にも、しっかりと対応してくれるはずですよ。

 

コミュニティーサイトの口コミなどを利用する

どうしても自分で判断できない場合は、コミュニティーサイトの

口コミなどを確認するのも一つの方法。

ただ、悪意ある書き込みも多いので鵜呑みにしないなど注意が必要です。

 

ネットで検索してみる

「動物保護団体 告訴 悪徳 起訴」などのキーワードでネット検索すると、

現在裁判中だったり、告訴されていたり、過去に起訴されたり

裁判にかけられたりした団体がヒットする可能性があります。

ネットで目星をつけた上で実際に見聞きして判断することをおすすめします。

 

保護犬の健康に関するトラブル

相手が団体であっても個人であっても、

保護主はどこまで健康管理を行っていたかを証明しなければなりません。

 

通常、保護した時点で保護主は、去勢・避妊(成犬の場合)、

フィラリアのチェック、狂犬病や混合ワクチンの接種などを

すませてから里親を募集します。

費用は里親に請求できるようになっているのですが、

実費ではなく、健康管理費として一括〇万円として請求するところもあります。

その際に、獣医師の証明書と領収書などを渡すことなく、

金銭だけを要求してきたら要注意。

 

きちんと証明書と領収書をもらって、相手が告知しているような

健康管理をしているかどうかを確認するようにしてください。

中には、ケガや病気があるのを知っていて、それを隠して譲渡する

保護主もいるようです。

 

引き取った後でそういった疾患が発覚すれば必ずトラブルに発展するので、

トラブルを防ぐためにも、譲渡の前に保護主の方で

健康診断をすませてもらうようにお願いしましょう。

もちろん費用は里親が払うことになりますが、

引き取った後、愛情が移ってしまってから知るよりも、

知ったうえで引き取るかどうかを検討する方が

納得がいくというもの。

通常、譲渡はある一定のトライアル期間後に正式譲渡となります。

健康診断はそのトライアルの期間に里親の方で行うのもよいでしょう。

また、マイクロチップに関しては、飼い主のデータを

記録させるといったシステム上、保護主ではなく、

正式に飼い主となった里親が入れるようになります。

マイクロチップは、高額なものでもなく、

迷子になった際に飼い主を特定するためのIDとなるのでおすすめ。

 

保護犬の問題行動に関するトラブル

保護犬に限らず、問題行動を起こす犬は多くいます。

ほとんどの場合、犬が悪いのではなく、飼い主が犬との接し方を間違っていたり、

犬にとっての環境づくりが適切でなかったりすることで起こります。

 

ただ、保護犬の場合は、人間に虐待されたり遺棄されたり、

あるいは災害で怖い目にあったりして、人間不信に陥っていたり

心に傷を負っていることが多く、それが問題行動を起こすことが多々あります。

 

問題行動があるからといって、外飼いだけはしないでください。

犬は飼い主のそばにいてこそ、人間の心模様や言葉を理解しようとします。

保護犬とよい関係を築きたいならば、常に身近に置くこと。

これが、保護犬との信頼関係を構築するための最大のポイントです。

そうすることで、どんな問題行動を起こすのか、どういう時に起こすのかを

いち早く気づくこともできます。

ではどういった問題行動が多いのか、以下で見ていきましょう。

 

なつかない

なかなかなついてくれない保護犬は、前述のように心に傷を負って、

人間不信に陥っていることが多く、すぐには人間に心を開いてはくれません。

「犬は3日飼うと3年は恩を忘れぬ」ということわざがありますが、

それは子犬の時から飼っている犬や人間にかわいがられて育った犬の場合。

心の中にトラウマを抱える保護犬の場合は、なかなかそう容易に

信頼関係を築くことは難しいといえます。

 

心を閉ざしてなかなかなつかない犬の場合は、無理に慣れさそうとはせずに、

時間をかけてゆっくりと距離を縮めていくことです。

大体2~3年はかかると覚悟しましょう。

中には、5~6年かけてやっと仲良くなれたというケースも。

呼んでもこないからといって、決して大きな声で怒鳴ったりしないように。

愛と忍耐の心で接してあげてください。

まずは手からトリーツを食べてくれることから目指しましょう。

大事なのは、ここにいたら安全なんだ、快適なんだ、この人は味方なんだ、

という思いをその犬が抱くようになること。

 

噛み癖がある

人間に虐待されていた犬には、噛み癖がある子が多いです。

まず、ひどい暴力を受けていて、噛むことでしか

自分を守ってこられなかったと思ってあげてください。

中には、今の今まで甘えていたのに、突然形相が変わって

噛みついてくるという犬もいます。

そういう時は、フラッシュバックが起こっているのだと考えてよいでしょう。

 

いずれにしても、どういった時に噛んできたり

噛みそうになるかを把握することが大切です。

つまりトリガー(引き金)を見つけるということ。

たとえば、抱きかかえようとした場合に噛む、

手を頭の上にかざしたら噛みそうになるなど、

人間のある一定の動作がトリガーになることがあります。

 

そういった場合は、トリガーとなる動作は行わないようにしましょう。

そして噛みそうになったら、まず「ノー」とか「いけない」といった言葉を発して

それがいけないことだとわからせます。

決して叩いたりしないこと。目を見て、言葉で冷静に叱ります。

そしてそこで噛まずに我慢したらご褒美としてトリーツをあげましょう。

根気よく叱り根気よくほめる。これを繰り返します。

それでも噛んでくる時は無視して相手にしないことです。

 

噛み癖の程度にもよりますが、散歩中にほかの人まで噛んでしまうようだったら、

一人でなんとかしようと思わずに、専門家の力を借りましょう。

犬のしつけ教室や犬の訓練所に相談してみてください。

 

吠え癖がある

環境に慣れないための不安が原因で吠える場合と、

もともとよく吠えるタイプの犬だという場合とがあります。

いずれの場合も、吠えている時は、叱るより無視をします。

そして吠えていない時にトリーツなどをあげてほめることを

繰り返してみてください。

 

たとえば、食事中に何かをねだって吠えるとか、

散歩に行きたいと吠えるような場合は、無視をしましょう。

そして吠えるのをやめたらほめながらトリーツをあげたり

散歩に行くなどしましょう。

吠えなければいいことが起こると思わせるのです。

 

どんな時に吠えるのかを分析し、それに基づいて

吠えるような環境をつくらないことも大切。

人影を見たらすぐにワンワン吠える犬は、

ケージを窓際に置くのではなく、人影が見えないところに置いて

その中に入れます。

 

ただ、散歩中に人や他の犬に向かって吠えたり

飛びかかっていったりするような場合、

あまりにも吠え癖がひどい場合は、ご近所の人間関係にも影響を与えるので、

早目にドッグトレーナーに相談することをおすすめします。

 

引っ張り癖がある

散歩中にリードをぐいぐい引く場合は、

首輪をハーフチョークというタイプの首輪に変えてみて様子を見ましょう。

前にぐいぐいと引きだしたら、リードをグイっと手前に引くと

首にショックがかかるようになっています。

ハーフなので、さほど強いショックではありませんが、

今までノーショックで歩いていた犬には、それだけで効果が出る場合があります。

 

また、犬の好きな方へ行かせないことも大事なポイント。

右へ行こうとしたら、反対の左へ向かって歩きはじめてみてください。

左だったら右へ、前だったら後ろへ、と、犬が行こうとした方向とは

反対の方向へ歩くのです。

それによって、犬は、自分がコントロールできないということを学びます。

リードを引きはじめたらぐるぐると円を描くように歩くのも効果があります。

犬は戸惑いながら足を止めます。そうしたら歩きだしましょう。

そうやって、コントロールするのは人間だということを覚えさすのです。

横について上手に歩いたときは、すかさずトリーツをあげます。

 

犬のサイズによっては手に負えない場合もあるかと思われます。

その場合はドッグトレーナーに相談しましょう。

 

どのような問題行動も、矯正するには時間がかかります。

何度も何度も根気よく繰り返す必要があります。

すべて自分一人でやろうとすると、時間的にも精神的にも無理が生じて

イライしてしまっては本末転倒。

飼い主の気持ちはすぐに犬に伝わって、せっかく縮まった保護犬との距離が

また離れてしまうということにもなりかねません。

何もかも一人で背負わずに専門家のアドバイスや力を借りることも大切です。

 

まとめ

やっと家族ができた保護犬。

…とはいえ、その保護犬が、「ここはわが家だ、この人たちはご主人様だ」

と思ってくれるまでにはかなりの年月を要します。

それでなくても、保護犬は、人間に遺棄され

さまよっていたところを保護団体に保護され、

預かりボランティアさんのところに預けられ、

そして里親のところへと転々としてきて、

だれを信じていいのかわからなくて戸惑っているはずです。

 

しかし犬はバカではありません。

新しい家に暮らしながら、彼(彼女)は、

じーっと新しい家族の言動を観察しています。

言葉も理解しようとしています。空気も敏感に感じ取ります。

そうやって、この家が自分にとって快適な場所であるかどうかを判断し、

また、この人たちは自分に害を与える人間ではない

という確信が得られてはじめて信頼関係を築くことができるのです。

それには何か月といった単位ではなく、何年といった単位の時間がかかります。

 

でも、毎日少しずつ、一進一退しながらでも紡いでいく保護犬との絆は、

保護犬と里親の二人三脚の歴史が織り込まれて、

何にも代えがたい宝物となるはずです。

気がつけば、いなくてはならない大切なパートナーとなっていることでしょう。

 

保護犬という犬を生み出したのは人間です。

そしてその保護犬を救うのも、また、わたしたち人間。

焦らずに、おおらかな心で、迎え入れた保護犬との暮らしを

慈しんでいただけることを願っています。


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