激動の一年だからこそ 年末に行うべき「振り返り」のススメ

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ささみ

経営者兼フリーライター兼コンサルタント。大手企業のマーケティング部門で管理職として20年勤務後、産業心理学や行動経済学を武器にフリーで活動。スマトラ津波のドキュメント本やシニア再就職本など出版も多数。現在は不動産投資家としても活動中。


突然ですが、ここ数年間のご自身の生活を思い浮かべてください。

誰しも5-10年の間に色々な変化が起こったと思いますが、

そのなかで最も印象深い出来事は何ですか?

 

「〇〇の仕事はやっている時は大変だったけど、今思うと自分の成長につながった」

「あの引っ越しは多忙でドタバタだった。でも妙な達成感があった」

「大きな病気をしたものの、周囲の人に支えられている自分を感じた」

 

など、「大変な思いをしたけれど」という前置きが入るエピソードが、

あとから振り返ると印象に残っているのではないでしょうか。

 

「記憶の自己」が幸福度を上げる

アメリカの心理学者のダニエル・カーネマンは、人間の幸福の捉え方には

二つの要素があると述べています。

「経験の自己」と「記憶の自己」というもので、それぞれ幸福に対して

感じ方が異なるのです。

 

二つの幸せを簡単に整理します。

  • 経験の自己=今を楽しむことで、幸福を感じること
  • 記憶の自己=大変な思いをしたが、振り返ると幸福を感じること

 

今回注目したのは「記憶の自己」です。

紆余曲折や苦しいことを経験しながらも、振り返ると「あれで一皮むけた」

「あれを乗り越えたからこそ、今の自分がある」という満足が、幸福感につながるのです。

カーネマンの研究では、経験の自己に比べると、記憶の自己の方が幸福感を感じやすいと

いわれています。

 

大変な年こそ、振り返りに意味がある

令和二年。

年明け早々に新型コロナウィルスの話題がのぼりはじめました。

その後はウィルス蔓延によって、あれよあれよという間に私たちの生活は一変しました。

 

外出が規制され、テイクアウトがスタンダードになり、職場に行けない日々。

外部環境や自分の状況が様変わりし、あっという間に年末を迎える……。

誰にとっても今年は「大変な1年」といえるのではないでしょうか。

 

穏やかな暮らしを望む人もいると思いますが、実は普通の体験では

幸福感は残りにくいといわれています。

大変な事態や強敵に立ち向かった経験こそが、脳は幸福を感じるのです。

 

大変な1年を逆手に取る機会が、年末の振り返りです。

「あー、大変だった」と漠然とした思いで終わらせるのは勿体ないです。

大変さをどう感じ、どう乗り切ってきたかという「振り返り」が生きるのが、

まさに今年といえます。

 

「モチベーション曲線」での振り返り

振り返りをする方法はさまざまありますが、今回はキャリア研修や就職での

自己分析の際によく活用される「モチベーション曲線」をご紹介します。

 

モチベーション曲線は、自分のモチベーション(やる気)がいつ上がり、

いつ下がったかなどを視覚化することです。

そのことで、自分がどのような経験をして、どのような人間なのかを再確認することができます。

【出典】日経クロステック『第2回 過去をさかのぼって自らのモチベーションを知る』

縦軸がモチベーションで横軸が時間です。

紙と鉛筆だけあれば、誰でも一年の振り返りを行うことができます。

 

※横軸は今年の振り返りであれば一年のみでよいですが、

余裕がある人は幼少期から書いてみると「人生曲線」という、

さらに深みのある振り返りが行えます。

 

では簡単に、モチベーション曲線の作り方を解説します。

 

STEP①経験の材料を集める

「一昨日の昼ごはん何を食べた?」などの質問に代表されるように、

人の記憶の賞味期限は意外と短いです。

 

ドイツの心理学者のヘルマン・エビングハウスが提唱した

「エビングハウスの忘却曲線」によると、人間の脳は覚えた情報を

1日後には7割以上忘れてしまうそうです。

(無意味な情報を含み、一度も復習をしないとする)

 

しっかりと振り返りをするならば、スケジュール帳や

メールのやり取りなどの履歴をもとに、1年間の行動や経験の材料探しを

してください。

改めて思い出すと、経験そのものは忘れていたけれど、

意外に心に引っ掛かる事象などが見つかるかもしれません。

 

STEP②感情を呼び起こす

経験や行動の履歴を見た際に、自然に脳内に感情も呼び起こされるのでは

ないでしょうか。

「あれは辛かった」「途方に暮れた」「希望の光が見えた」「心躍った」などなど。

その感情の揺らぎこそが、振り返りの要諦なのです。

心の揺らぎを経験とともに、曲線にしたためてください。

 

「記憶の自己」を通じて1年を眺めることで、自分がどのような場面で

どのような感情変化があったか分かるはずです。

もし曲線がの下部のネガティブ感情に振り切れる場面があったら、

そこに注目してください。

 

その地点からどのようにしてリカバリーをしたかを、

あらためて確認してみるとよいでしょう。

気持ちが落ち込んだ時の、自分なりの回復方法のヒントがあるはずです。

著者自身も今回の記事を書くにあたり、1年のモチベーション曲線を作りました。

 

私は曲線が極端に下まで落ち込む事件が起きたときに

「絶対に這い上がってやる!」と、いつも以上のパワーが沸くタイプ、

という気付きがありました。

 

何も事件がなく平穏であるときは、世間のネガティブな話題などに不安感が煽られ、

徐々に線は下降していました。

その不安感が的中するような事件が起こると、一度曲線は大きく低下します。

 

しかし事件をきっかけにリカバリー感情が奮起し、回避行動に走ります。

そして乗り越えたあとは、元々の水準を上回る位置まで

線がのぼっていることが多かったです。

 

人によって回復方法やきっかけポイントは異なるでしょう。

そんな自分らしさを見つけるのも振り返りの狙いです。

ご家族など親しい人と一緒に振り返りを行うことも、

相互理解が深まるのでおすすめです。

 

STEP③来年の自分に呼びかける

「1年の計は元旦にあり」といいますが、いきなり1月1日に過去がリセットされて、

新しい年が始まるわけではありません。

この1年間、モチベーションが上がったり下がったりしながらも、

年末に至った現在地点の自分をいまいちど感じてください。

このグラフを書いた人の多くは「客観視することで意外な自分が発見できた」

「あれこれと自分なりにがんばったと思う」という、自分に優しい感想を持ちます。

 

今回は振り返りがメインテーマなので、この段階で「来年はこんな年にしたい!」と

ガツガツするのは一旦止めておきましょう。

今年一年がんばった自分を認めつつ「来年、最低限これは守ろうね」という、

来年の自分への小さな約束事をして、振り返りを終えてください。

 

1年の振り返りが、人生に生きてくる

前述した「一年の計は元旦にあり」ということわざは

誰しも聞いたことがあるでしょう。

 

似たような中国のことわざで「一年の計は、穀を樹うるに如くはなし。

十年の計は、木を樹うるに如くはなし。終身の計は、人を樹うるに如くはなし。」

というものがあります。

 

“1年間の生活のみを考えるなら、穀物を植えればよい。

しかし、十年間の人生計画を立てるなら、木を植えなければならない。

さらに、生涯の計画を考えるならば、よき人格を作り、

よき人材を求めなければならない”

という解釈になります。

 

この先も5年10年と続く人生を豊かに生きるために、

まずはこの1年で育った穀物を見つめ直してください。

枯らした穀物もあったかもしれません。

穀物を復活させる手段を取った人もいれば、別の穀物を植えた人もいるでしょう。

 

このように1年1年の歩みを丁寧に振り返っていけば、

自分らしい人格が育ち、いずれ好ましい人たちに囲まれた人生につながります。

年末に1年の振り返りを行う習慣の第一歩として、大変だった今年を

題材にするのはおススメです。

 

激動の令和二年だからこそ。

「あなたらしさを見つける振り返り」を行ってみてはいかがでしょうか。


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