人付き合いの8割が円滑になる!?コミュニケーションにひそむ行動心理学のコツとは

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ささみ

経営者兼フリーライター兼コンサルタント。大手企業のマーケティング部門で管理職として20年勤務後、産業心理学や行動経済学を武器にフリーで活動。スマトラ津波のドキュメント本やシニア再就職本など出版も多数。現在は不動産投資家としても活動中。


会社での人付き合い。ご近所のママ友とのやり取り。

社会で生活している以上、「人付き合い」は避けて通れません。

  • 特別話が上手いワケじゃないけど、いつも人の輪の中心にいる
  • なぜかあの人の頼み事は聞いてしまう。要領がいいなと思う
  • 話題の引き出しが多くはないのに、不思議と場を持って行く

こんな人が周囲にいるのではないでしょうか。

 

「特別な何か」があるわけじゃないのに、いつも人付き合いがうまい人。

もしかしたらその人は「行動心理学」を、巧みにコミュニケーションに

忍び込ませているのかもしれません。

 

コミュニケーションに潜む、8割の無意識の世界

行動心理学は人間の行動のルールを追究している学問。

「あるしぐさをしたら、ある感情を抱いている」など、

言動から気持ちを探るアプローチです。

それゆえ、行動心理学は対人コミュニケーションに応用しやすいのです。

 

「行動心理学の記事」で説明したように、

人間の脳には自動思考の「システム1」と、熟考の「システム2」が存在し、

私たちの言動の約8割は無意識の思考回路「システム1」で占められているのです。

 

「普段ムッツリして不機嫌そうな人」がたまにピュアな笑顔を見せたりすると、

普通の人の笑顔以上に好印象を抱いたり、ありがたみを感じたりしませんか?

 

これはアンカリング効果というもの。

「普段はムッツリ」がアンカー(錨)となり、

その人のデフォルトの印象になっているため、

笑顔の希少性が増しているのです。

最近も、某大統領選挙のテレビ討論会で同様の現象がありました。

 

傍若無人でお馴染みの現職大統領。

初回の討論会で、相手の話に大胆にカットインする大統領を知っている人たちは、

第二回目の様子に驚かされたことでしょう。

対立候補のスピーチの最中に、口をつぐみ俯いてメモを取る姿を見て、

「あの人にもこんな謙虚で殊勝な一面があるのか!」と。

 

某大統領の印象にうっかり騙された人も、

冷静に考えると「演出かもしれない」と考え直す

「システム2」が作用するかもしれません。

 

同様に、恋愛や重要交渉など心理的な駆け引きが絡む場面では、

慎重なシステム2が働きます。

「元がムッツリ顔だから、たまたまドキっとしただけかも。でもよく考えると、

何週間も笑わない人より、いつも笑顔の人と付き合った方がいいはずだ」

と思いなおすでしょう。これが、脳内で2割働くシステム2の思考回路の作用。

 

今回はそのような特別な場面ではなく、日常の「ちょっとしたやり取り」を

取り上げます。

むしろちょっとした場面だからこそ、脳内で8割も勝手に働く「システム1」

という自動思考回路が影響してくるのです。

 

実録!?行動心理学をうまく使うB子さんの実例

行動心理学の理論とともに、今回は「架空のB子さん」という女性を例にとり、

同僚A子さんの視点で紹介していきます。

さてB子さんは、どのような行動心理学のテクニックを活用しているのでしょうか。

 

他部署に謝罪に出向く

朝のオフィスに到着したA子。

同僚のB子に挨拶をすると何やら焦った様子です。

 

理由を聞くと「私たちのチームの経費額が間違っていた。

経理に謝りに行かないと」

とのこと。

経理はミスには非常に厳しい部署です。「早く行こう」とB子を促します。

経理の担当者は「あら、B子さんまた来たの!?」と、

少し機嫌がよさそうです。

A子は「さっきも来たなら、なぜその時に謝らなかったのか」

と少し首を傾げます。

 

B子は素早く伝票ミスを詫びると、こう付け足した。

「ついルーチンになると、先月の額をコピーしちゃって」や

「この手の凡ミスは他の部署でも多いでしょうね」

すると経理担当者は「まあ、そうよね~」とあっさりとミスを受け入れ、

「次は気をつけてね」と最低限のお咎めで済んだのです。

 

行動心理学的に「謝罪場面」を解説

  • ザイオンス効果
    実はB子は昨日伝票のミスに気が付いており、謝りに行く前に2-3回経理に顔を出していました。
    「そのコート素敵ですね」「おやつのお裾分けに」と他愛もない理由です。
    これは同じ人や物に接する回数が増えるほど、好意を持つ習性を利用したテクニック。

 

余談ですが、筆者がかつて営業職に就いていた頃、

上司に「知っている鶏は食えないんだ!」

というセリフとともに、足繁く顧客の所に通うよう指示を受けていました。

これもザイオンス効果を狙っていますね ^ ^

 

  • バーナム効果と正常性バイアス
    「バーナム効果」は、誰にでも当てはまる曖昧なことを「当たっている」と思う心理効果です。
    「正常性バイアス」は、事件が起こった時に「たいしたことがない」と思い込もうとする心の動きです。

 

B子の言い訳は、よくある場面を列挙して、経理担当のまろやかな納得感とともに、

ミスを軽視するスタンスを引き出したのです。

 

判断を伴う会議に出席する

A子とB子は、自部署に新しく導入するセキュリティソフトの検討会議に出席します。

価格が安くて操作も簡単そうなツールですが、それだけに実際にどれだけウィルスを

発見するかがA子は気になります。

 

そんな時B子が「このツール、すごいです。ウィルス発見率90%なんですよ!」

と発言します。

さらに「うわ、安いですね。月に2万で導入できますよ」と興奮気味に続けます。

会議参加者は頷きながら、前向きな表情です。

 

しかしA子は「それは10%のウィルスは発見できないってことでは?」や

「2万だけど、数年導入するとかなりの予算になるんじゃないかな」

と心配になります。

 

ダメ押しにB子はパンフレットを見ながら、

「今月導入を決定したら、通常は有料のサポートサービスが無料になりますよ。

来月は使えない権利なので、決めるなら今じゃないですか?」と力説。

A子の視界には、決裁者の部長の首がゆっくり縦に動く様子が目に入ります。

 

行動心理学的に「判断場面」を解説

  • フレーミング効果
    ダニエルカーネマンの最も有名な研究の一つで、同じ事柄でも伝え方や表現方法が変わるだけで、
    印象の受け方が変わる現象です。
    要は「物は言いよう」です。
    A子が懸念していたように「10%の重要ウィルスを見逃す可能性があります」や
    「この効果に対して、年間24万の負担は果たしてお得でしょうか?」など
    ネガティブな訴求をすれば、部長の首は横に振られていたかもしれません。

 

  • 「今月しか使えない付帯サービス」を強調したのは、「損失回避の法則(プロスペクト理論)」を
    働かせています。
    人は得よりも損失の痛みが大きく、回避したい気持ちになります。
    「得になる権利を活用できないこと」を損失と認識してしまい、つい回避したくなるのです。

 

ちょっとしたお願いごと

A子は1時間後の会議に使う資料をコピーしていました。

そこに慌てた様子のB子が駆け寄って、こう言います。

「ゴメン!これ10分後の会議で必要な資料なの。コピー割込みさせて」

 

A子は「10分後ならしょうがない」と思いコピーを譲ります。

一方、B子からはこの手のお願いをよくされる気がするな……と、

書類をセットするB子の背中を見て考えます。

 

その数時間後。

自販機でコーヒーを買っていると、B子が歩いて来ました。

「さっきの資料、間に合った?」と聞くと

「バッチリだよ、ありがとう!でも…」と困った表情を浮かべるB子。

なんでも会議の場で、ある調査をする仕事が急遽B子に依頼されたそう。

 

B子は「もー、調査苦手なんだよな、しかも期限も超タイト。

ねえ、A子。代わりにやってくれない?」と手をお願いのポーズにします。

「まさか。それは無理だよ」とA子は断ります。

 

「じゃあさ、私の別の〇〇案件を代打でお願いできない?」

とB子は食い下がります。

急な追加仕事は気の毒だなと思いつつも、

〇〇の案件もそこそこヘビーです。

申し訳ないと思いつつも「うーん、ちょっとそれも無理かも」

と小さい声で断ります。

 

すかさずB子は、

「それなら、調査の一部分の下調べだけ手伝ってくれないかな?」

と勢いをつけて言いました。

それくらいならA子にも手伝えそうです。

「あ、うん。それならいいよ、協力する」と返事をすると、

B子は「ありがと。A子はやっぱり頼りになる」とご機嫌です。

 

行動心理学的に「お願い場面」を解説

  • カチッサー効果
    他人に何かを要求する際、理由付けをすることで承諾確率を高める効果。
    実際に「コピーを割り込ませて」と単純にお願いするだけでなく、
    「10分後の会議で急いでいるので」と理由をつけてお願いした方が、
    成功率が1.5倍~2倍ほどあがる実験結果もあります。

 

  • ドア・イン・ザ・フェイス・テクニック
    仕事の協力依頼するB子は、本命の要求を通すために、まず過大な要求を提示し、
    相手に断られたら小さな(本命の)要求を出すというテクニックを使っています。

 

このテクニックは営業場面で活用されることが多いです。

まず高額な料金を提示して、相手に一度断らせます。

その次に小さい額(本命の額)で提示します。

相手は一度断って「申し訳ない」という心理状態のため、

要求をのみやすくなるのです。

もしB子が最初から「下調べ手伝って」と要求を出したら、

果たしてA子は受諾したでしょうか……?

 

飲み会の盛り上がりの秘訣

夜は部署の懇親会がありました。

A子は大勢の飲み会が苦手で、席が近い同僚とばかり話してしまいます。

それはB子も同じで、大声で騒いでいる一団とは別に、

隅で静かにお酒を呑んでいます。

 

飲み会が一番盛り上がったのは「会社での失敗談」を披露しあう場面です。

みんな数々の失敗を告白し、場の雰囲気は多いに活気づきます。

B子はクライアントの商談で緊張しすぎて、自分の上司を「君付け」で連呼した

エピソードを披露します。

貫録のある上司の風貌を思い浮かべ、場にはドッと笑いがおきます。

 

飲み会も楽しく終わり、一行は店を出ます。

すると、B子が「超極秘ネタを暴露しちゃった。

このネタを話したのは今日が初めてです。

きっと楽しすぎたんですね」と言い、場のムードが一気に和みました。

誰かがボソッと呟きます。「今日の主役はB子だなー」と。

 

行動心理学的に「飲み会場面」を解説

  • 「ピーク・エンドの法則」
    最も感情が動いたとき(ピーク)と、出来事が終わったとき(エンド)の記憶で、
    経験への全体的な印象が決定される法則です。

 

映画にも、ピーク・エンドの法則があてはまります。

映画を判断するとき、「クライマックス(ピーク)」と

「ラスト(エンド)」によって、印象が左右されるはずです。

たとえ途中まで退屈な内容だとしても、

中盤で盛り上がり、ラストにどんでん返しが用意されていると、

映画の内容に満足しがちです。

 

円滑なコミュニケーションのために

今回はビジネスシーンを取り上げましたが、恋愛や近所づきあいなどの

多くの場面で、「行動心理学」の単語を最近は耳にするようになりました。

 

昨今は、論理的思考や対話術などのシステム2的なスキルの必要性も

叫ばれています。

その一方で、しぐさや言葉の使い方で「無意識の心理」にアプローチする

システム1の領域が、思わぬ効果を生むことがあるのです。

 

行動心理学を使って、いきなり敏腕仕事人やモテモテになったりするわけでは

ありません。

ただ、「ちょっとしたお願い」などの日常場面では効果を発揮するかも

しれません。

なかなか人とのコミュニケーションがうまくいかない、

と思われる方は行動心理学のテクニックを試してみるのは

いかがでしょうか。

 


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