「ウッカリ買い」の8割は削減できる!?行動心理学にひそむ買い物の罠とは。

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ささみ

経営者兼フリーライター兼コンサルタント。大手企業のマーケティング部門で管理職として20年勤務後、産業心理学や行動経済学を武器にフリーで活動。スマトラ津波のドキュメント本やシニア再就職本など出版も多数。現在は不動産投資家としても活動中。


季節は戻りますが、ここは真夏の都心部です。

炎天下の気配が残る夕暮れの街中、サラリーマンの男性が汗だくで歩いています。

今日の営業活動はほぼ終わり。喉はカラカラ、一日中よく働きました。

 

男性の目にはやけに居酒屋の看板が飛び込んできます。

日が陰ってきて、夕日のオレンジ色も疲れた目に染みわたります。

さて、突然ですが質問です。

「ビー〇」

この〇には、どんな文字が入りますか?

 

消費行動に潜む、8割の無意識の世界

先ほどの質問、多くの方が「ビール」と答えたのではないでしょうか?

というより、脳裏に「浮かんだ」のではないでしょうか。

 

行動心理学の記事」で説明したように、人間は過去の経験などの積み重ねにより、

脳内で「システム1」という自動思考回路が、行動の約8割で勝手に働きます。

冒頭のお題は、行動心理学でいう「プライミング効果」という手法を使いました。

プライミングとは、過去に見聞きした情報(文字・音楽・画像)が、

無意識にその後の行動に影響を与える現象です。

 

文書であらかじめ「真夏」「サラリーマン」「居酒屋」「オレンジ色」など、

ビールを想起させる記述を行ったことで、皆様に「経験」を刷り込み(プライミング)

しました。

しかし、「真夏」のあとに「ヤシの木」「タオル」「砂浜」「青色」

などの記述をすれば、多くの人が「ビーチ」と答えたことでしょう。

 

マーケター達が考える消費行動の罠

前回ご紹介した心理学者「ダニエル・カーネマン」がノーベル経済学賞を

受賞したように、行動心理学は、経済が絡む場面でヒューマンエラーを呼びやすいです。

私たちの生活で如実に影響を受けるのが「買い物」です。

 

「仕事を頑張ったから、ご褒美にデザートを買おう」など、心理的な感情で購入をした

経験は誰しもあるはずです。

この心理を利用し、購買側にいるマーケターは巧みな罠をしかけています。

 

しかも「システム1」という自動発動の思考に働きかける罠のため、あまり「騙された」

という自覚もないでしょう。

今回はそんな行動心理学に基づき、日常の買い物に潜む罠について紹介します。

 

実録!?行動心理学の罠にハマったA子さんの実例

行動心理学の理論とともに、今回は「架空のA子さん」という女性を例にとり、

ストーリー形式で紹介していきます。

では早速、A子さんはどのような行動心理学のトラップにハマっているか、

追っていきましょう。

 

通勤電車で広告を見つける

A子はオフィスに向かうため、通勤電車に乗り込みます。

毎日決まったルートなので、やや暇気味にスマホをいじります。

そんな時、電車の中吊り広告がふと目に入ります。

「世界的テニスプレイヤーの〇〇も絶賛!毎日5分で英語がペラペラになるDVD」

 

A子は「そういえば〇〇は流ちょうな英語だな」や「5分ならこの通勤時間が使える」

などと考えます。

すぐにDVDを検索すると、レビューの評価が高いことに加えて、

数多くのコメントが入っていて驚きます。

A子はそのページをブックマークし、後日申し込みしようかなと考えました。

 

行動心理学的に「電車内広告」を解説

  • テニスプレイヤー〇〇という著名人を出すことは「権威への服従効果」が使われています。
    人間は無意識に権威者の命令に従い、要求に応じるという心理影響が働くのです。

 

  • レビューの評価と件数を見て気持ちが動くのは、「ウィンザー効果」と「バンドワゴン効果」です。
    「ウィンザー効果」は、第三者から間接的に言われると信頼性が増すという心理効果です。
    併用されている「バンドワゴン効果」は、支持者が多ければ多いほど、満足・安心感が増加する心理効果のことです。

 

ランチタイムの食事

お昼の時間、同僚とランチを取るために、A子は新しくできたイタリアンに向かいます。

ランチメニューは「2,000円」「1,200円」「800円」の3つがあります。

A子は「お昼から2,000円は使い過ぎだし、かと言って800円はケチっぽいし」と思い、

1,200円をオーダーしました。

 

イタリアンは少々カロリーが気になるところ。
しかしメニューには「オーガニック」などの文字が並んでいます。

「体に優しいから、カロリーも低いのだろう」とA子はほのかに安心します。

 

美味しく食べたあと、お会計の際に「今月末まで使える200円オフクーポン」をもらいました。

「今は中旬だから、もう一回来ないと勿体ないな」とぼんやり考えながら、

A子はオフィスへの道を戻りました。

 

行動心理学的に「ランチ価格」を解説

  • 価格が3つに設定されているのは「松竹梅効果」です。
    商品購入は本来「価値」「価格」のモノサシが使われるのですが、ここに「見栄」というモノサシを巧みに刷り込ませ、真ん中の商品を選択させる働きです。

 

  • 「オーガニック」の単語で「太らないだろう」と思うのは「プラシーボ効果」です。
    これは偽薬効果(プラセボ効果)とも言われ、「思い込み」のようなものです。ノンアル飲料をアルコールと言われ飲んでしまうと、酔っ払った気分になる現象です。

 

  • クーポンで「使わないと」と思っているのは、「損失回避の法則(プロスペクト理論)」です。
    人は得よりも損失の痛みが大きく、回避したい気持ちになります。経済学の観点だけだと、「お店に行かないこと」が資産を減らさない方法なのですが、「お得なクーポンを使わなかったこと」を損失と認識してしまい、つい回避したくなるのです。

 

メルマガでお得情報を受け取る

午後もそこそこ忙しく、A子はメール処理などに追われました。

ふと私用のメールを覗くと、よく利用する通販サイトからのメルマガが届いていました。

つい安心して開封します。

 

すると文面に「痩せたくない人は見ないで!」というキャッチコピーがあり、

A子はドキッとします。

ダイエットサプリの広告バナーでした。

お昼のイタリアンが頭をよぎり、リンクをクリックしました。

 

遷移したページには、体験者の写真とともに「あまりダイエットの必要性は感じて

なかったけど」と掲載されています。

さらに「運動はしたくない」など、自分の気持ちを代弁するようなコメントが続きます。

A子は「まさに私にピッタリ」と感じます。

 

価格はサプリにしては高額です。
しかし成分表や大学教授のコメントが続き「巷のサプリとは効果が違うのかも」

とA子は思います。しかも「残り〇個」の表示に焦ります。

ダメ押しで「1ヶ月効果がなければ、返品・返金OK」とのコメントを見て、

「それなら」と思わず「注文」ボタンを押してしまいます。

 

行動心理学的に「お得情報」を解説

  • 慣れ親しんだサイトのメルマガを開くのは「ザイオンス効果」です。
    同じ人や物に接する回数が増えるほど、好意を持つようになる心理効果です。

 

  • キャッチコピーには「カリギュラ効果」が使われています。
    禁止されるほどやってみたくなる心理現象のことです。
    昔話の『鶴の恩返し』で、「覗いてはいけません!」と言われるほど、つい襖を開けてしまう心理がまさにこれです。

 

  • 体験者の声は「バーナム効果」が使われています。
    誰にでも当てはまる曖昧なことを、「自分に向けられたメッセージ」と思ってしまう心理効果で、占いや血液型占いでよく使われるテクニックです。
    ポイントは「〇〇だけど、△△ですよね」と相反するセリフを忍び込ませることです。途端にリアリティが増し「そう!よく分かっている!」と人は感じてしまうのです。

 

  • 高価格や残り個数には「希少性の法則」が使われています。
    価格帯がハッキリしない商材に対して、人は「貴重だから数少ない→価格が上がる→効果がある」と感じてしまいます。

 

  • ダメ押しとなった「返品OK」は、「保有効果」や「現状維持バイアス」が使われています。
    一度手にした物に愛着が沸き、価値を感じる傾向が「保有効果」です。
    さらに「現状維持バイアス」は、現状維持より現状を変えるデメリットが大きいと感じる心理です。実際に「返品をコールセンターに電話して、配送伝票を書いて」などの作業を思い浮かべると、「もう少し続けてみよう」と思う消費者心理が働くのです。
    その結果、「返品OK」のフレーズで購入決定する人は多いにも関わらず、実際に返品行為をする人は実はかなり少ないのです。

※なお「メールマガジン」というツールは、行動心理学を取り入れていることが多いです。注意深く閲覧をしてください。

 

帰り道の駅ビルで…

仕事を終えてオフィスを出たA子。

駅まで近道をしようと、ファッションビルを突っ切ろうと中に入りました。

するとアパレルショップ前に店員が立っており、「キャンペーン中です。どうぞ!」と、

ボーダー模様のポーチを渡しました。

 

「えっ!これ新品じゃないの!?」と、A子は少し動揺します。

ショップ棚を見ると、同じ商品が、まあまあの値段で売りに出されていました。

「得しちゃった」と思いつつも、貰ってしまった手前、何となくA子はお店をぶらつきます。

 

店内を見渡していると「商品入れ替え!底値セール!」コーナーに

「15,000円→7,000円!」というワンピースを見つけました。

入れ替えだけあって、今シーズンにはもう出番はなさそうです。

「でも半額以下はお買い得じゃない!?」と思い、ワンピースを試着してみました。

「急な出費だけど…」と迷いつつも、購入を決めたA子。

 

一息ついた時に、店員が「それにぴったりの小物はいかが?」と、

淡い色のスカーフを差し出しました。確かに濃い色のワンピースを引き立てそうです。

さりげなく価格をチェックすると、1,000円とお値ごろな価格です。

思わずA子は「これくらいなら」と、来年のコーディネートに思いを馳せて、

ワンピースとスカーフを持って浮き浮きとレジに向かいます。

 

行動心理学的に「キャンペーン品&セール」を解説

  • キャンペーン品を受け取ったあと、直帰せずに店内をブラついたのは「返報性の法則」です。
    何かをして貰うとお返しをしなくてはいけない、と感じる心の働きです。なおスーパーの試食も、同じ効果を狙っています。

 

  • ワンピース価格には「アンカリング効果」が使われています。
    アンカーとは船の「錨(いかり)」の意味です。最初に提示された情報が印象に強く残り、意思決定に影響を及ぼすのです。
    つまり単に7,000円だけを提示するより、15,000円がアンカー(錨)となり、7,000円をより「魅力的」と思わせる効果が生じているのです。

 

  • レジに向かう際に店員が話しかけるのは「テンション・リダクション効果」が使われています。
    テンション(緊張)リダクション(減少)のことで、緊張がなくなったあとは注意力が下がる心理効果です。
    よくスーパーのレジ付近に安価な商品が並べられているのも、本命の商品をカゴに入れてホッとした消費者の「ついで買い」を誘発したいからです。

 

「ウッカリ買い」を防ぐために

今回は「A子さんの一日」にまとめてしまいましたが、部分的に思い当たる場面は

あるのではないでしょうか?

自分の欲しいものや高額な買い物は、システム2の熟慮が働きますが、

深く考えずに日常品を買う場面では、怠け者のシステム1が働きがちです。

 

この手の「ウッカリ買い」を減らしたい場合は、数日寝かして本当に欲しいと思った物

のみ購入するようにしてください。

ただ、あまりにも小さな物に対して「何かの罠か!?」と構えると、

ギスギスして殺伐とした日常にもなりかねません。

日常の小さな「ウッカリ」には、「こういう作戦かも」や

「マーケターの罠にのっかってやるか」と大らかな気持ちでいた方が、

行動心理学を楽しく生活に取り込めそうですね。

 

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